こうちの森や山
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動物と風 森を吹き抜ける風は、動物たちにとって生活に欠かせない存在です。風は様々な情報を彼らの元に届ける郵便屋さんのようなもので、危険な音や臭い、それに仲間の声や臭い、また他の動物たちの声や臭い、そして食べ物の臭いを運んでくるのです。

 森の中を小まめに散策していると、動物が残した生活の跡がけこう沢山あることに気づきます。足跡などはその代表のようなものですが、糞も細かく観察するとなかなかおもしろいものです。一番目立つ動物の糞はタヌキのものでしょう。獣道が縦横無尽に走っている所には、必ずタヌキたちの溜め糞場を発見します。タヌキは原始的なイヌ科の動物で、家族単位の群れでなわばりをもっています。その各タヌキ家族のなわばりの境界付近に、この溜め糞場があるのです。

 溜め糞場は、タヌキたちの共同トイレであり、情報交換所でもあるのです。夜な夜なタヌキたちはこの溜め糞場にやってきて、いつ隣の誰がやってきてそこに糞をしていったのかの情報を得ているのです。また、そこにわざわざ来なくても、風が溜め糞場の臭いを運び、離れたところでもそうした情報を嗅ぎつけることができるのです。

 家族から独立した若い雄のタヌキは、こうした溜め糞場を渡り歩き、同じような若い独身の雌タヌキを探すのです。若い雄は当然なわばりをもっていませんから、放浪しながら伴侶を見つけるのですが、風はまだ見ぬ彼女の臭いを彼の鼻先に届け、その臭いに引き寄せられるのです。若い雌のタヌキの臭いは、彼の鼻が落ちるほどにかぐわしき臭いなのでしょう。やがて2頭は出会い、新たな一つの家族が誕生するのです。

 森を吹き抜ける風、それは動物たちの恋文を運ぶ愛のメッセンジャー。人が感じることができない風でも、その風に乗って様々な動物たちの恋文が飛び交っている。そうした風が運ぶ臭いを、もし私たちに嗅ぎ分けることができたら、森の散歩はさぞかし楽しいだろう。

中西 安男(わんぱーくこうち・アニマルランド学芸員)