こうちの森や山
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虫の音森の還元者たち

 森林というと、まず、数多くの樹木が集まっているところを想像します。森林が木材を生産する、林業を営むところだと考えるのならこのような考え方ですみます。

 でも、森林は樹木だけで成り立っているのではありません。樹木を含む緑色植物はみな太陽エネルギーを固定する生産者ですが、生産者だけでは物質が循環しないのです。森林では、そこに生活しエネルギーを得ているものすべて、そしてそれらの各々が、森林を構成するものです。しかもそれぞれつながりをもって森林を構成しているのです。

 森林の樹木達が太陽エネルギーを利用して生産した有機物を、昆虫、鳥、獣など動物が消費し、分解を促し、動物たちの糞や死体を土の中の動物や微生物がまたもとの無機物にまで還元して、樹木たちが栄養として吸収し、成長するサイクルをつくっているのです。森林を持続するためには、植物も、動物も、微生物もなくてはならないものなのです。

 森は生きている、とよくいわれます。森林はさまざまな生物が共同して働き合うひとつの有機体、それ自体が生物体なのです。常にいろいろな生物が相互作用を及ぼしている系を形づくっていると考えることができるのです。

土壌動物の種類と数の一例 森林の世界は、生産者、消費者、そして還元者から成り立っています。森林のなかで葉を食べる毛虫がいたとき「害虫だ」と言い「退治しなければ」と考えるのは循環を断ち切ってしまう可能性もあるのです。害虫であるかないかは、人間の利用目的にもとづく価値基準で決めているものです。樹液に群がるカブトムシ、チョウ、ハチも毛虫も皆同じ存在です。昆虫は餌を求めて花を訪れ、植物は花粉を昆虫に託して花から花へと運んでもらい種子生産の手助けをして樹木の増殖に関わり、またあるものは食物連鎖の一員として動物界を安定化させています。植物は昆虫を誘うため、甘い蜜やよい香りや、美しい色を用意しています。植物はまた昆虫の行動に巧みに合わせて開花したり、雄しべの下にテコ仕掛を用意し、花粉が虫につきやすくして受粉の便をはかったりしているのです。

 地球上の生物の種の中で哺乳類、鳥類、植物などはすでに9割以上名前がつけられていますが、昆虫類や微生物では現存する生物のなかで名前が付けられているのは1割以下と考えられているのです。

木が枯れて倒れても、次の世代を育てる役目を果たす

微生物の役割

 森林にはたくさんの落葉が堆積しています。北の森、四国でも高い山の森で、ふわふわした厚いスポンジを踏んでるみたいな感触を足の裏に感じます。

 森の中の落葉と土の境の上下5cmの間には多くの土壌動物が生活しています。

 落ちたばかりの葉や枯れ枝は固すぎて土壌動物は食べることはできません。きのこやカビなどをはじめとする菌類や微生物が落葉を柔らかくし、土壌動物がそれを食べ、落葉などのかけらは糞になります。こうして分解しやすくなった落葉などのかけらを微生物がさらに分解します。分解された落葉と鉱物質を土壌動物や水が混ぜることで土になっていきます。こうした土は養分に富み、通気性、保水性が良いので、植物の成育に適しています。葉や枝より時間はかかりますが、倒れた大きな木も微生物や土壌動物に栄養を与えながら分解されていきます。こうした微生物や土壌動物の働き、それは彼らが生きていくためのいとなみですが、そのサイクルを通じて、枯れた樹木達は次世代の植物を育てる土にかえっていきます。

 天然林では、倒れた大きな木が朽ち、その上に次世代の樹木が列状に育っている「倒木更新」を見ることができます。

 土壌動物は身近にいる動物なのですが、ふだんは見る機会が少ないものです。土を掘って調べてみればきっとその数の多さに驚かされるでしょう。

 観察が終わったら、土は埋めもどし、動物は逃がしてあげましょう。
高橋 文敏(元森林総合研究所四国支所支所長)