JR伊野駅にほど近い場所にショールーム「Design Studio Kira」がある。京都の豆腐屋をモデルに建てられたという和モダンな店内に入ると、丹精込めてつくられたテーブルや椅子、箪笥や下駄箱などの箱物、茶器、照明器具などが展示されている。多くの商品が県産の広葉樹でつくられた一品物で、和・洋・李朝の家具から小径木の家具、また木目の上品な光沢が冴える漆が塗られた家具やスプーン、柱時計、さらにはテーブルにすると200万円は下らないという縦2m、横1m、厚さ10cmを超える一枚板も置いてある。
多摩美術大学の彫刻科を卒業後、工業デザイナーや小・中学校の技術工芸講師などの経歴をもつ代表の吉良修さんの転機は1992年、ふらりと木工の展示会をのぞいたときだった。展示されていた小径木でつくられた家具を見て、木工の道に進むことを決意したのだ。そして、専門の学校に通ったり弟子入りすることをせず、その家具をつくった職人の下にわずか3ヵ月ほど通った後で、ほとんど独学で技術を身につけてしまった。
「10年も木工に携わるとあらかた技術を覚える」と言う吉良さん。いつも気にかけることは、いかに飽きられない家具をつくるかだ。多くの家具屋に展示されている目を引くおしゃれな家具はいわば「厚化粧した家具」であり、つくれば売れるがそんなものはすぐに飽きられるという。デザイナーとして「東急ハンズ準大賞」や「オブジェ東京展入選」など数々の受賞暦を持つ吉良さんならそのような家具をつくることは容易だろう。しかし、たとえばダイニングテーブルなら「家族が集まり料理が載ったときにその良さが際立つもの、普段は殺風景なくらいがちょうどいい」というデザインコンセプトは崩さない。
日本の美術書をひも解くと、「木工」というタイトルはなく「漆工」がそれに当たる。このことを知った吉良さんは、本格的に木工に打ち込むなら漆は避けて通れないと思い、道具一式を買い揃えて“不退転の決意”で取り掛かる。最初は均一に塗れなかったり、まったく乾かなかったり、全身がかぶれて病院に行くこと3回と技術的にも肉体的にも多難を極めたそうだ。小径木を使った椅子づくりから始まった木工も、かれこれ15年になり今では漆を使った家具まで仕上げてしまう。ひたすら木工の道を極める吉良さんがここまで来るには、人知れず労苦を経てきたのだ。
何気なく前を通ると見過ごしてしまいそうな控え目なショールーム「Design Studio Kira」。その中に入って商品に触れ、じっくりと観ていただきたい。建物と同じくシンプルで控えめなつくりだが、奇を衒(てら)わず細部まで行き届いた木工品の数々には確かな存在感があり、異彩を放っている。「飽きのこないものを創りたい」という吉良さんの意地と想いは、訪れる者にひしひしと伝わるはずだ。