バイオリン―。この言葉を聞くと、高雅でやや高級な楽器というイメージを浮かべるのが普通だろう。バイオリンはまた、音を気にせず練習できる住宅環境に恵まれていなければそもそも扱えないし、指導者も少ないのが現状。そのような逆境にあえて挑戦しているのが香我美町の「木と音の会」だ。代表の泉谷貴彦さんは「多くの人に“手づくり楽器”を奏でる楽しさ知ってもらいたい」と、県内のみならず全国的に活動をしている。
元中学校の音楽教師だった泉谷さんは、いつかは生徒だけではなく多くの普通の人たちに楽器の楽しさを伝える仕事をしたいと思っていた。そしてあるとき、じっと定年まで我慢してそれから活動を始めるか、それとも若いうちに辞めて始めるべきかに悩むようになった。結局、1度しかない人生なので後悔はしたくないと、34才で学校を辞めて今の道に入ったという。
楽器は楽器店で買うものだと誰しもが思っている。しかし、いま楽器店で売られている楽器のほとんどはプロ用に進化しすぎて、普通の人が弾くには向いていないと泉谷さんはいう。それは喩えれば、「主婦がF1レース用のスポーツカーで買い物に行くようなもの」なのだそうだ。そもそも楽器というものは誰でもが気軽に楽しめる楽しいもののはず。そんな本来の目的を持った楽器をつくりたかったと、設立のきっかけを語る。
ここで製造・販売している楽器は、ルネサンス時代の弦楽器を参考につくられたバイオリンやチェロ、ハーブなどで、音がやや小さく弾きやすいのが特徴。自分でつくる楽しみも満喫してもらうため、主にキット販売(バイオリンタイプで74,000円〜)を行っているが、完成品も販売(バイオリンタイプで82,000円〜)している。
楽器をつくる楽しみは、ほかではちょっと味わえないものだ。とくに、サウンドホール(楽器のボディーに開いている穴)の大きさや形状を変えると音量や音質がまったく別物になるし、ボディー自体も削り具合ひとつで微妙に音色が変わるため、オリジナルの音色をつくり出すことができるのだ。自分の手でつくったオリジナル楽器で弾く音楽は、愛好家ならずとも楽しいものだろう。
現在の会員は全国に約80名。県内では香我美町のほかに、高知市の2会場(百石町、横浜新町)で手づくり楽器での演奏を教えており、東京や大阪、広島でも活動を行うなど、次第に全国にその輪が広がりつつある。またスイスの音楽学校に招かれてコンサートを開催したこともあるというから、これからは世界にも通じる活動に成長していく可能性もある。音楽に国境はないのだから、手づくり楽器による演奏会というとんでもない試みは、世界の人びとから感動をもって受け止められるに違いない。
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