「樹齢100年の木で家具をつくるなら、100年間は使ってもらいたい」
植村和暢(まさのぶ)・厚子夫妻はこの想いを胸に、「工房刻屋」を2003年に創業した。使えば使うほど味わいが出るよう丹精込めて手づくりされる製品の数々。机や食器棚などの大型家具のほか、木馬や積み木などの遊具、時計やCDラックなど種類も豊富だ。
鹿児島県種子島出身の和暢さんは高知大学農学部林学科(現・森林科学科)卒。大学で山や森林について学ぶうち、家具づくりに携わりたいとの想いが生まれた。そして卒業後、飛騨高山での家具修行を経て、気候風土と県民性に強く惹かれていた高知を開業の地と決めたという。
飛騨高山の同じ工房で修行していた妻の厚子さんは元保育士。子供好きの厚子さんの楽しみは、試作のおもちゃを息子の優人君に与えて観察し、改良を加えていく作業だ。こどもが思う存分五感を使って木の感触を楽しめるように、舐めても安全な植物性のオイル塗装や無塗装にしている。「この子はもううち(刻屋)の社員なんです」と笑顔で語る厚子さん。製品の良し悪しは、実際におもちゃで遊ぶ子供を見ていればよく分かるという。生後間もない息子が、すでに開発担当の役割を果たしているのだ。
和暢さんは、“使い捨て”の風潮に強い違和感を持っている。それは家具づくりにも随所に現れる。たとえばデザイン。徹底的にシンプルさを追求するのだ。シンプルを求めれば、自ずと壊れにくい形が出来上がるし、当然ながらメンテナンスもしやすく長持ちする。また奇抜なデザインや色のものは飽きやすいが、シンプルなデザインはいつまでも飽きないので、家具に愛着が湧き、結果的に長く使うことになる。耐久性を高めることと分解修理しやすさを考え、釘を使わずにホゾ組加工でつくるのも和暢さん一流のこだわりだ。
「自分がつくった家具は、自分が生きている限りメンテナンスしたい」と語る和暢さん。自らが手がけた家具に責任と自信を持つ職人気質が言わせる言葉だろう。展示された家具に実際触れてみると、ずしりと存在感がある。お客さんに長く使って欲しいという職人の想いが、確かに伝わってくるようだ。
屋号にもまた、想いが込められている。以前、木工業界では木材取引の単位として「石(こく)」が使われ、木工場のことを「石屋(こくや)」と呼んでいたという。高知で今でもそう呼んでいると聞きつけた植村さんは、高知で続けていくという決意や、自分の製作した家具が買ってくれた客と一緒に長い時を刻んでもらいたいとの想いで、「石屋」をもじって「刻屋(こくや)」と命名したそうだ。
オーダー家具づくりは、何度も客と図面のやり取りを行うので完成まで長い時間を要する。いいものを長く使って欲しい植村さんの想いと、客の求めるデザイン、大きさ、そして予算との接点を見つけるのに3ヵ月を要することもあるそうだ。それだけの手間をかけて出来上がった珠玉の逸品は、もはや単なる家具を超えた家族の一員のようなものだろう。 |