「工房ポレポレ」は、不思議な工房だ。たとえば椅子の脚。工房主の千葉洋さんによると、角材をわざわざカンナで丸く削っているという。機械加工ではないので、当然ながらでこぼこができる。それが椅子にほのぼのとした温かみを与え、深い味わいになっているのだ。そのほか、片方のみに肘掛けをつけた椅子やベンチ、かわいい形をした3輪車や木馬のおもちゃ、木の形を生かした時計など、どれも完成度の高い心温まるものばかりだ。
それに、値段もリーズナブル。工房ポレポレの家具は手間ひまかけた「ホゾ組加工」で家具を製作しているため、見た目もきれいで丈夫。なのに、たとえばスツール(背もたれのない1人用の椅子)の価格ひとつ取ってみても7,000円前後なのだ。
工房名の「ポレポレ」とは東アフリカで広く使われるスワヒリ語で「のんびり」や「ゆっくり」という意味。大学を卒業後、大手食品加工メーカーに勤務していた千葉さんは26歳で退職。その後は世界各国を転々と放浪、青年海外協力隊の一員としてもアフリカなどで働いた経験がある。その体験で得たものが「スローライフ」という生き方だった。だから「ポレポレ」なのだ。
“千葉流スローライフ”はしかし、単なる田舎暮らしではない。目指すは、衣食住のすべてを自分の手でつくること。このとんでもない夢を実現するために、縁もゆかりもない高知県の山間の小さな村、幡多郡黒潮町馬荷(旧大方町)に移住。ほどなくして地元の女性と結婚して家庭も持った。今ではコメや野菜などをつくりながら木工製作に励み、大好きな釣りを楽しむなどスローライフを思い切り満喫している。趣味の写真の腕もプロ級で受賞暦も多い。収入は人より少ないと笑う千葉さんだが、支出も少ないのでお金に困ることもなく、楽しく生活しているという。
オーダー家具も製作するが、「お客さんは家具づくりにできるだけ参加してほしい」と語る千葉さん。一緒に家具づくりに関わることにより、家具に愛着が湧き大切に長く使ってもらえることを期待しているのだ。こんなエピソードがある。ある客から、トンボの形をデザインした椅子と学習机の製作依頼が来た。大のトンボ好きという子供のために、その子の親である依頼主と共同でつくったのはトンボの形をくり抜いた背もたれの椅子と学習机。千葉さんは、愛着が湧くようにあえてトンボの絵を客に描いてもらったそうだ。そして数年経ったある日、その子が珍しいトンボを発見したという記事が新聞に掲載され、千葉さんは自分のことのようにうれしかったという。
千葉さんと話していると、「価値観」や「豊かさ」について考えさせられる。お金、時間の使い方、幸せ・・・。普通の会社勤めの人とは明らかに異なる価値観。どちらが良い悪いではないが、ひとつ明らかなのは千葉さんが豊かで幸せな人生を歩んでいること。製作者の心の豊かさがにじみ出ている木工品の数々が、ここ「工房ポレポレ」には確かにある。