「今から30年以上前になるかなぁ…。木曽なら木曽ヒノキ(桧)というブランドがあるけど、高知にはヒノキのブランドがなかった。だから私が最初に『四万十ヒノキ』と言い始めた」と振り返る池龍昇社長。
もともと彫刻が趣味だったことや、自分で商売を始めるのが夢だった池さんは、脱サラを機に木彫りの闘犬などのみやげ品を製作して生計を立てていた。ある時、木工製品を量産化するためには工業化するしかないと、みやげ品づくりに見切りをつけ、現在の主力製品である四万十ヒノキを使った台所用品や風呂用品を製造・販売することを決意した。ところがつくることはできても販売網や販売ノウハウを一切持っていないためまったく売れない。東京のデパートや卸業者に売り込みに行っても門前払い。あてもなく安ホテルに何日も泊り込む日々だったという。現在のように携帯電話やインターネットなどない時代、情報を得るためには自らの足を使うしかない。足が棒のようになる経験を何度も繰り返して、ようやくひとつ成約できたときには人情の有難味を痛感したそうだ。
その苦労を経て、いまや同社は高知の木工業界を代表する会社に成長。四万十ヒノキを使ったバス用品やキッチン用品、雑貨などで有名だが、実は一番のヒット商品は意外にもまな板(税抜980円〜)や洗濯板(税抜1,000円〜)。洗濯板は、20代から30代の女性を中心に幅広い年代層からの需要があるという。洗濯機がこれほど普及した中で洗濯板とは不思議な感じもするが、「これはニッチ(隙間)商品ですね。けっこう根強い人気がある」と池さん。
同社の商品はどれも洗練されていておしゃれだ。デザインは、アメリカ在住の専属デザイナーと池さんを含めた同社スタッフが練りに練るというから、なるほど頷ける。おしゃれな商品がぎっしり詰め込まれたホームページを覗くと、誰しもついつい衝動買いしたくなること請け合いだ。
池さんはまた、月に数回は国内出張に行くほど行動的。「たしかに費用は高くつくが授業料だと思えば安いもの」なのだそう。出張や視察先で必ずいろいろな発見があり、実際に目にすることで感性が磨かれていくのだという。同社の商品が洗練されているのは、視察を欠かさない行動力とそこから生まれる感性、アイデア力があるからこそなのだ。
現在、土佐龍がつくる商品は国内はもとより海外でも販売されている。これは驚くべきことで、高知にとっても誇らしいことだ。池さんに何ヵ国で売られているかを訊いたところ、「7ヵ国か8ヵ国か…。販売は委託しているので、どこの国で売られているのか私もよく知りません」とのこと。自信と野心に満ちた頼もしい“いごっそう”が生み出すおしゃれな商品に、これからも注目だ。