テーマ: 「森の妖精ヤイロチョウ」について
「森の妖精ヤイロチョウ」について
南谷幸雄 (愛媛大学大学院連合農学研究科)
連絡先:b0mf025@s.kochi-u.ac.jpp


〇ヤイロチョウとは

 高知県にお住まいの方なら、「ヤイロチョウ」という名前を聞いたことがある方が多いと思います。また、道路標識に用いられている綺麗な鳥の絵が、ヤイロチョウです。しかし、その生きた姿を見たことがある方は極わずかだと思います。ヤイロチョウはまだ生態のよく分かっていない、謎に包まれた鳥です。このページでは、ヤイロチョウの不思議についてご紹介いたします。

ヤイロチョウの成鳥(環境省インターネット自然研究所より) ヤイロチョウ(Pitta nympha)はスズメとハトの中間ほどの大きさの鳥で、「八色鳥」という名の通りカラフルな色彩をしています。なお、この8色は人によって見方が異なるため、どの色と決まっているわけではありませんが、一般的に黒、白、黄、緑、茶、赤、青、クリーム色といわれています。皆さんも写真を見て考えてみて下さい。

 日本でのヤイロチョウの記録は江戸時代にまで遡ります。飼い鳥としてある大名が飼育したという記録も残っています。しかし、この頃はごく稀に迷ってくる鳥と考えられていました。1937年(昭和12年)に高知県宿毛市で巣が発見され、日本でも繁殖していることが確認されました。現在では、日本国内で100〜150羽が繁殖していると考えられています。このうち、四万十川流域には数十つがいがいると考えられており、日本で最もヤイロチョウの密度の高い地域といえます。
 ヤイロチョウは夏に日本や台湾、韓国南部、中国南部で繁殖しますが、秋〜春までこの地域では見られなくなります。冬季にヤイロチョウの記録があるのはインドネシアのボルネオ島ですが、これも古い記録が10例程度あるに過ぎません。また、ボルネオ島で捕獲された標本を詳しく調べてみると、日本や台湾で捕獲された標本よりも小型であり、体の大きさは中国南部で繁殖している個体に近いことが分かっています。つまり、ボルネオ島で越冬する個体は中国南部で繁殖したものの可能性が高く、日本や台湾で繁殖したものが冬季どこへ行っているのかは残念ながら全く分かっていません。今後、GPSが改良されれば、この謎も解明できるかもしれません。



〇ヤイロチョウの繁殖生態について

ヤイロチョウの卵 ヤイロチョウは5月中旬頃に日本に渡って来て、子育てをし、秋に南方へ渡って行きます。子育てをするための巣は急峻な山地の沢沿いの急斜面の地上に作ります。巣はドーム型で、側面に出入り口が開いています。4〜6卵を産み、♂♀交代で2週間ほど抱卵します。ヒナがフ化すると、初めのうちは片親がずっとヒナを抱いており、交代で餌を運びますが、ヒナが成長すると両親とも餌を探しに出かけます。巣の入り口にビデオカメラを仕掛け、ヒナの餌として何を何回持ってきたのか調べてみたら、85%がミミズでした。雨の日には多数のカエルを運んできました。その他、ムカデやヘビ、昆虫などを運んできましたが、それらをあわせても10%程でした。



 高知県には「かんたろう」と呼ばれる体長30cm、太さ1.5cmを超えるような大きな青色光沢のあるミミズがいます。ヤイロチョウのヒナは、孵化後4日目で太さ1.5cmほどのかんたろうを食べていました。ただ、あまりにも餌が大きすぎてなかなか飲み込めず、途中で休憩しながら食べるなど、腹の中に入れるのに非常に苦労していました。

巣立ち前日のヤイロチョウのヒナ


  ヤイロチョウのヒナは主にミミズを食べて大きくなります。2週間巣の中で親鳥に餌をもらって成長したのち、巣から飛び立っていきます。もちろん、巣立ったのちも親鳥から餌をもらって成長します。ヒナが巣立って3日間ほどは巣の近くにいます。しかし、私は4日目以降は確認することができませんでした。巣から遠く離れた安全な所に家族で移動したと考えられます。日本では10月中旬までヤイロチョウの記録があります。ヒナが巣立つのが7月上〜中旬ですが、それから10月まで、ヤイロチョウがどこで、どんな生活を送っているのかは全く謎です。
 
 
○ヤイロチョウを保護するための取組み

 ヤイロチョウは日本で100〜150羽程度しかいない、と先ほど述べました。一般的に、生物は個体群を維持するためには100羽が最低限度と考えられています。しかし、ヤイロチョウを取り巻く環境には、個体数を減少させてしまいそうな要因がまだたくさんあります。道路工事や人工林化など森林の開発により生息地が奪われること、美しい姿を写真に収めようとカメラマンがヤイロチョウの営巣地に侵入し子育てを失敗させてしまうこと、などが特に大きな問題となっています。そこで、高知県にある生態系トラスト協会は募金を募ってヤイロチョウの生息地を買い上げ、トラスト地として人の立ち入り・開発のできない保護区を作りました。また、特にヤイロチョウの数多く生息する四万十町でヤイロチョウの地域保護管理マニュアルの作成し、カメラマンなどの営巣地への侵入の規制などを働きかけようとしています。
 ヤイロチョウはとてもきれいな鳥です。その半面、極めて警戒心の強い鳥です。実際にヤイロチョウを見たい、という人はたくさんいると思います。けれども、ヤイロチョウは子育て中の巣に近づくことを嫌がります。ヤイロチョウがずっと生き続けていけるように、配慮することが必要です。この美しい鳥と共存していくことが求められます。



▼もっと学習したい方へのリンク集▼